「カードの磁気が弱い」と言われたら、新しいカードは郵便で来る

10月30日、埼玉県吉川市。83歳の女性の家から出てきた24歳の男に、近くを警戒していた警察官が声をかけた。男はキャッシュカードと通帳を盗んだ疑いで、翌31日に逮捕された(埼玉新聞、11月2日配信)。

口実は「あなたのキャッシュカードは磁気が弱くなっているので作り替える必要がある」だったという。先に市役所や金融機関の職員を名乗る電話があり、還付金のはがきに返事がなかったとも言った。男は金融機関の職員を装って家を訪ね、カードと通帳を封筒に入れさせ、別の封筒とすり替えた疑いが持たれている。

磁気が弱くなるのは本当の話

厄介なのは、口実が丸ごとの嘘ではないところだ。カードの磁気は実際に弱くなることがあり、銀行には再発行の手続きがある。

では本物の手続きはどうなっているか。三菱UFJ銀行の案内を見ると、磁気不良などで使えなくなったカードの再発行は、アプリ、電話、窓口のどれかで申し込む。新しいカードは窓口では渡さず、1週間から10日ほどで届け出の住所へ簡易書留で送る、とある。銀行によっては、ATMで磁気を直せるところもある。大東銀行は平成30年から、ICキャッシュカードの磁気不良をATMで直すので窓口での再発行が要らない、と案内している。

どの道筋をたどっても、銀行の人が家までカードを受け取りに来る場面は出てこない。警察庁も、自治体や銀行協会などの職員が暗証番号を聞いたり、カードを預かりに来たりすることは「絶対にありません」と書いている。磁気の話を持ち出されたら、本物なら新しいカードは郵便で来るはずだ、と一つ覚えておけば足りる。

法律の上では「詐欺」ではなく「窃盗」

この手口には、警察庁の付けた名前がある。キャッシュカード詐欺盗という。詐欺と盗みをつなげた、妙な言葉だ。

だまして話を信じ込ませるところまでは詐欺に似ているが、最後にカードを持ち去るのは、相手が目を離したすきのすり替えである。本人は渡したつもりがない。そこで罪名は窃盗になる。最高裁は令和4年2月14日、この型の事件について、犯人が被害者の家の近くの路上まで来た段階で、もう窃盗の実行に取りかかったと言える、という判断を示している。家に上がる前でも罪に問えるということだ。

警察庁の確定値では、令和7年のキャッシュカード詐欺盗は1243件、被害額は14億4千万円ほどで、前の年より減った。いま急に増えているのは、警察官を名乗って捜査の名目で金をだまし取る「ニセ警察詐欺」のほうで、1年で1万1千件を超えた。それでも、すり替えは月に100件ほど起きている計算になる。

私が引っかかったのは、新しい手口の陰で、古い口実がまだ通じていることだ。磁気という言葉は、聞き覚えがある分だけ疑いにくい。「磁気」と聞いたら、玄関ではなく郵便受けのほうを思い出してほしい。

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