前の晩に約300万円あったFXの口座が、朝見ると約120万円になっていた。大阪府の37歳の女性が、10月22日に経験したことです。読売新聞によると、午前0時40分に南アフリカの通貨ランドを売ってユーロを買う取引が一度だけ行われ、それで119万円の損が出ていました。本人には覚えのない取引です。
口座から1円も引き出されていない
この話で私が引っかかったのは、お金が「盗まれた」わけではないことです。誰かの口座へ送金されたのではありません。勝手に、損の出る売買をされたのです。
舞台は、GMOインターネットの「お名前.com デスクトップクラウド」というサービスでした。ネットの向こうに置いたパソコンのようなもので、FXの自動売買を一日中動かしておくのに使われていたそうです。自動で売買させるには、証券会社やFX会社に入るためのIDとパスワードを、そのパソコンに預けておくことになります。
読売新聞によれば、このサービスの利用者は2万人以上。国内外の70を超える証券会社やFX会社の口座に、不正な操作が行われた可能性があるといいます。便利のために、70社分の合鍵を一つの部屋に置いていた。そこに泥棒が入った、という構図です。GMOの関係者も、取材に「システム側に脆弱性があった」と認めています。
そういえば、去年の春も
これを読んで、去年の春に相次いだ証券口座の乗っ取りを思い出しました。あのときも犯人は、盗んだ口座からお金を引き出していません。持ち株を勝手に売り、その代金で、取引の少ない中国株などを大量に買ったのです。値をつり上げておき、前もって持っていた同じ株を売って利益を得たとみられています。金融庁のまとめでは、6月までの不正取引は7139件、不正な売買の総額は約5710億円に上りました。
口座の持ち主を通り越して、「売買する権利」だけを使う。そこが今回とよく似ています。ただ今回、犯人がどうやって得をしたのかは、まだ報じられていません。
補償と、脅しのメール
GMOは24日、不正アクセスが原因と認めた取引の損失を補償すると発表しました。被害があったかどうかにかかわらず、今の利用者全員に5000円の見舞金も払います。補償の申請方法は11月6日までに知らせるそうです。
一方で、ハッカー集団を名乗る者が、利用者に「顧客データを公開する」というメールを送りつけています。セキュリティー会社の専門家は、犯行声明のサイトを開くと自分の端末の情報を取られるおそれがあるので、見ないようにと呼びかけていました。
読売新聞が話を聞いた男性の一人は、指紋や顔で本人を確かめる「パスキー」まで設定していたそうです。それでも、預けた鍵ごと持っていかれては防ぎようがありません。「個人でできる対策には限界がある」という言葉が、私には一番重く聞こえました。

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